Meta

Orion: 初のARグラスが登場

概要

「我々はARグラスを開発します。」

この言葉を5年前にお伝えしたとき、指先で触れるデジタルな情報世界と、実際の物理的世界のどちらかを選択しなくてはならないということのない未来を構想していました。

そして、あれから5年経った今、再び未来を切り開く言葉をお伝えします。

Metaは「ARグラスを開発しました。」

Metaのミッションはシンプルで、コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現することです。Reality Labsでは、いつでもどこでもつながりを感じてもらえるようなツールを開発しており、そのため、そこにいるという感覚と、人とのつながりが感じられて、力を発揮できる世界を実現するための、人を中心に据えた次世代のコンピューティングプラットフォームの開発に取り組んでいます。

Ray-Ban Metaスマートグラスは、利用者が物理世界から、デジタル上での主要な機能をハンズフリーで利用できることを示しました。スマートAIアシスタントと会話をしたり、友達に連絡をしたり、大切な瞬間の撮影したり、スマートフォンを取り出すことなくできます。このスタイリッシュなスマートグラスは、日常生活に自然に溶け込み、利用者に愛用されています。

Ray-Ban Metaにより、AIを搭載したディスプレイのないスマートグラスという全く新しいカテゴリを切り開きましたが、XR業界が長年夢見てきたのは、真のARグラスの実現でした。つまり、大型のホログラフィックディスプレイとパーソナライズされたAIアシスタントを兼ね備えた、快適でスタイリッシュに一日中着用できる形状の製品です。

そして、本日「Orion」の発表によって、Metaはその夢の実現にさらに近づきました。Orionは、これまでに作られたARグラスの中でも最先端の製品だと考えています。実際、これはスマートフォン以来、開発が最も難しいコンシューマーエレクトロニクス製品かもしれません。Orionは、現代のコンピューティングのあらゆる分野における画期的な発明の結晶であり、Reality Labsによる過去10年間の取り組みがその土台となっています。これまでに作られた中でもでも最先端なARディスプレイや、MRヘッドセットにおけるほんの一部の電力と重さで、メガネ1つで強力なAR体験を可能にするカスタムシリコンなど、Orionにはまったく新しいテクノロジーが詰まっています。

Orionの操作は、音声、視線、ハンドトラッキングとEMG(筋電図)リストバンドをシームレスに組み合わせます。EMGリストバンドを装着していれば、腕を身体の横におろした状態でも、スワイプ、クリック、スクロールなどの操作が可能なので、現実世界で周りの人とつながりながらも、充実したデジタルコンテンツを利用できます。

9月25日(米国時間)から年内にかけて、Orionの製品プロトタイプをMetaの従業員と一部の社外の方々に公開します。開発チームはフィードバックをもとに改良を重ね、コンシューマー向けのARグラス製品ラインを構築してまいります。Metaは近い将来、コンシューマー向けのARグラスを発売したいと考えています。

なぜARグラスが重要なのか?

ARグラスが、人を中心に据えたコンピューティングを今後飛躍的に進化させる鍵となる理由は、主に3つあります。

  1. ARグラスでは、スマートフォンの画面サイズに制限されることなく、デジタル体験を可能にします。大型のホログラフィックディスプレイを使用することで、現実世界をキャンバスにし、2Dや3Dのコンテンツや体験を好きな場所に配置できます。
  2. ARグラスは、コンテキスト適応型AIをシームレスに統合しており、周囲の状況を感知、理解し、利用者のニーズを予め予測して対応することができます。
  3. 軽量なデザインで、屋内外での使用に適しています。またARグラスは、掛けていても他の人の顔や眼、表情をしっかり見ることができます。

大型ディスプレイ、高帯域幅インプット、コンテキストAIを、日常生活で快適に着用できる形状にまとめ、ウェアラブルの利便性と手軽さを兼ね備えた製品。これこそが、この業界が目指してきた理想の姿です。

コンパクトなフォームファクタ―と山積みの課題

長年にわたり、私たちは誤った選択に向き合ってきました。それは、大きめの形状であるが没入感あふれる体験を提供できる仮想現実(VR)や複合現実(MR)ヘッドセットを選ぶのか、もしくは大きなディスプレイや十分な計算能力がないために優れたグラフィックや体験が限られるが、軽量で一日中着用できるスマートグラスを選ぶのかという選択です。

しかし、我々は妥協せずに両方を実現したいと考えています。Metaは、VRやMRのヘッドセットで提供している素晴らしい空間的な体験を、軽量でスタイリッシュなメガネ型で実現するため、必要なテクノロジーを小型化することに長年取り組んできました。フォームファクターの最適化、ホログラフィックディスプレイの搭載、魅力的なAR体験の開発、そして新たなヒューマン・コンピューター・インタラクション(HCI)のパラダイムの確立を1つの製品にまとめることは、この業界が直面してきた最も難しい課題の1つです。この課題があまりにも困難であったため、Metaは成功の確率を10%未満と見積もっていました。

しかし、それは以前の話です。

革新的なフォームファクターに搭載された画期的なディスプレイ

Orionは、これまでのARグラスの中でもコンパクトな形状でありながら、約70度と最も広範囲の視野角を誇ります。この広い視野角により、マルチタスクのウィンドウや、大画面でのエンターテイメント、等身大の人物のホログラムのなど、物理世界を見ている視覚とデジタルコンテンツがシームレスに融合し、実に没入感のあるユースケースが可能になります。

Orionの視野角の拡大は、Metaの最大の目標でした。我々は物理法則に挑み、自然ではありえない光の屈折を生み出す必要がありました。それをミリワット単位で測定されるパワーエンベロープで実現しなければなりませんでした。

ガラスではなく、初めて炭化ケイ素という素材でレンズを製作しました。炭化ケイ素は非常に軽量で、光学的アーチファクトや迷光が発生せず、屈折率が高いという特性を備えています。これらの光学特性のすべてが広い視野角を実現する鍵となります。導波管自体は、広視野角に必要な光の回折または発散ができるよう、非常に複雑なナノスケールの3D構造をしています。また、プロジェクターは非常に小型で電力効率も優れているマイクロLED(μLED)という新しいディスプレイ技術を使っています。

Orionは透明なレンズであり、見た目もかけ心地も間違いなくメガネそのものです。現在のMRヘッドセットや他のARグラスとは異なり、お互いの実際の眼や表情が見えるので、現実世界とつながり、周りの人々と体験を共有できます。毎日快適に着用できる現代のメガネの形状に仕上げるためには、さまざまなイノベーションが必要でした。Orionは小型化の賜物であり、複数のコンポーネントがミリ単位以下まで小さく詰め込まれています。 フレームの縁には、7つの極小カメラとセンサーを埋め込むことができました。

光学精度は、人の髪の毛1本の10分の1に相当するレベルで維持する必要がありました。室温の変化によってフレームが膨張または収縮するなど、微小な動きはシステムが検知し、必要な光学的配列をミリ秒単位でデジタル修正することができます。フレームは、F1のレーシングカーや宇宙船に使われているマグネシウムで作りました。マグネシウムは軽量でありながら硬く、光学素子の配列を保ちながら効率的に熱を発散させることができます。

加熱と冷却

ディスプレイと物理的な問題を解決した後には、非常に高い演算能力を持ちながら、低電力消費と放熱の必要性という課題に取り組む必要がありました。現在のMRヘッドセットのように、メガネにファンを搭載することはできないため、創造力が求められました。Orionの冷却用素材の多くは、NASAが宇宙で衛星を冷却するために使用するものと類似した素材が使われています。

Metaは、AI、機械認識、グラフィックのアルゴリズムに最適化された、電力効率が非常に高く高度なカスタムシリコンを開発しました。複数のカスタムチップを作り、これらのチップ内には高度なカスタムシリコンIPブロックが数十個配置されています。これにより、通常では数百ミリワットの電力を必要とし同時に相応の量の熱が発生する、ハンドトラッキングおよびアイトラッキングに必要なアルゴリズムや、SLAMテクノロジー(自己位置推定と環境地図作成の同時実行)を、わずか数十ミリワットの消費電力に縮小することができました。

そして、カスタムシリコンは引き続きReality Labsの製品開発において重要な役割を果たしています。

スムーズなEMG操作

新しいコンピューティングプラットフォームが登場するたびに、デバイスの操作に関するパラダイムシフトが起こります。現在主流になっているグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)が普及するきっかけとなったのは、マウスの発明です。スマートフォンが本格的に普及したのは、タッチスクリーンが登場してからです。ウェアラブルデバイスにおいても同じ法則が当てはまります。

ARグラスへのインプットは、迅速で、便利で、信頼性が高く、控えめで、かつ社会的に受け入れられるものでなければなりません。この信念をもとに、Metaは長年にわたり、表面筋電位EMG(筋電図)に関する取り組みを進めてきました。そして、そのテクノロジーがついに実用段階に入りました。

Orionのインプットおよびインタラクションシステムは、音声、視線、ハンドトラッキングと、EMGリストバンドをシームレスにつなぎ、利用者はスワイプ、クリック、スクロールといった操作を簡単に行うことができます。

その操作感はまるで魔法のようです。例えば、朝のジョギング中に指先で軽くタップするだけで写真を撮ったり、手をほとんど動かさずにメニューを操作したりできます。高性能の繊維と埋込型のEMGセンサーを組み合わせたリストバンドは、わずかな筋肉の動きから発生する電気信号を検知します。内蔵された機械学習(ML)プロセッサーがEMG信号を解析して、インプットイベントを生成し、ワイヤレス通信でARグラスに送信します。このシステムは使えば使うほど利用者に適応し、使用時間とともにより微妙なジェスチャーを認識できるようになります。Metaは、EMGリストバンドに関する公平性とアクセシビリティの可能性を拡大するための外部研究を支援しており、現在はその詳細(英語記事)を公開しています。

ワイヤレスコンピュートパックを紹介

真のARグラスの条件は、ワイヤレスであり、同時に小型でなければなりません。そこでMetaは、Orion用にワイヤレスのコンピュートパックを開発しました。コンピュートパックを利用することで、グラスの処理負荷を軽減し、バッテリー寿命を延ばし、フォームファクターをさらに最適化しつつ、低遅延性も実現できます。

ARグラス自体は、ハンドラッキングや、アイトラッキング、SLAM、特殊なARのワールドロックのグラフィックアルゴリズムを実行しますが、アプリのロジック処理はコンピュートパックが担当するため、できるだけ軽量でコンパクトに保つことができます。

コンピュートパックにはデュアルプロセッサーが搭載されています。そのうちの1つはMetaが独自に設計したカスタムプロセッサーで、低遅延性でのグラフィックレンダリングやAI、追加の機械認識に必要な演算処理が可能となります。

コンパクトでスタイリッシュなデザインのコンピュートパックをバックやポケットに入れておくだけで操作できます。ケーブルも不要です。

AR体験

もちろん、ほかのハードウェアと同様に、実際にOrionを使ってできることに価値があります。まだ始まったばかりですが、現在Orionが提供できる体験から、今後に期待できることのワクワクを垣間見ることができます。

 

OrionにはスマートアシスタントMeta AIが搭載されています。Meta AIは、現実世界で見ているものを理解し、有益に視覚化することで、利用者をサポートします。Orionは、Ray-Ban MetaスマートグラスでAI体験を実現しているLlamaモデルと、カスタムリサーチモデルを使用し、将来のウェアラブル開発に向けたさまざまなユースケースを実証します。

例えば、移動中でもハンズフリーのビデオ通話で友達や家族とリアルタイムで会話することも、WhatsAppやMessengerに接続してメッセージを確認したり送信したりすることも可能です。スマートフォンを取り出してロックを解除し、アプリを探して友達にディナーに遅れることを連絡する必要はありません。すべてOrion上で行えます。

 

また、遠く離れた家族でも、同じソファの反対側に座っている友達でも、一緒にARゲームをプレイすることができます。また、Orionの大画面ディスプレイを使って複数のウィンドウでマルチタスクも可能であるため、ノートパソコンを持ち歩くことなく作業をこなすことができます。

Orionで現在利用できる体験が、今後コンシューマー向けに展開するARグラスのロードマップの計画に役立ちます。Metaは、開発パートナーと協力しながら、新しい没入感のあるソーシャル体験の改良と構築を続けていきますので、今後の展開についての続報をお待ちください。

明確な目的を持つプロトタイプ

Orionが消費者の手に渡ることはありませんが、これは研究用のプロトタイプではありません。OrionはMetaがこれまで開発してきた中で最も優れた製品プロトタイプであり、コンシューマー向けに出荷できる可能性をまさに体現したプロトタイプです。焦って商品棚に並べるのではなく、まずは内部での開発に注力することで迅速な開発を続け、テクノロジーと人びとの体験の限界を広げることにしました。

つまり、より良いコンシューマー向けのARグラスを、より早く実現できるということです。

今後の見通し

主流のコンシューマー向けARグラスには、2つの大きな障壁があります。コンパクトなメガネのフォームファクターに大きなディスプレイを搭載するための技術的なイノベーション、そしてARグラスで実現できる実用的かつ魅力的なAR体験の必要性です。Orionは、スタイリッシュなハードウェア上で本格的なAR体験を初めて実現するという、とても重要なマイルストーンなのです。

Orionの発表に続き、Metaは今後以下のことに注力していきます。

今後数年間のうちに、これまでの研究開発の成果をもとに新しいデバイスが登場する予定です。Orionにおける多くのイノベーションは、現在のコンシューマー向け製品や、今後の製品にも応用されます。例えば、Meta Quest 3SとOrionの両方で動作する空間認識アルゴリズムの一部を最適化しました。また、視線やわずかなジェスチャーによるインプットシステムは、元々Orion用に設計されましたが、今後の製品にも活用する予定です。さらに、EMGリストバンドのテクノロジーも将来のコンシューマー向け製品に活用することを検討しています。

Orionは単に未来を示すものではなく、現在実際に製品として届けられる可能性を提示したものでもあります。Metaは常に人と人とのつながりを応援するというビジョンのためにOrionを開発しました。Ray-Ban MetaスマートグラスからOrionに至るまで、人々がデジタル世界の充実したコンテンツを利用している間も、物理世界に意識を向け続けることで、より力を発揮できるようになることの素晴らしさを実感しています。

私たちは、二つのうちどちらかを選択する必要はないと考えています。なぜなら、次世代のコンピューティングプラットフォームでは、その必要はなくなるでしょう。